〜使徒堕ち〜「ユーフラテスの四天使よ」 ユーフラテスの川の辺にファルグスは降り立つ。 ファルグスの前には、鎖で繋がれた下半身が白馬の四人の天使が居た。 「聖眼を封じられた真実の天使、ファルグス」 一番手前に居た天使がファルグスの名を呼ぶと、残りの三人もファルグスの方を向いた。 「その鎖、私が解き放ってやる」 「なんと!?我々を自由にすると言うのか」 突然のファルグスの言葉に四天使はざわめき立つ。 「ただし、私の下に降れ。さすれば、永遠の自由を約束しよう」 「聖眼を封じられた今の貴方に何が出来る?」 「案ずるな、自分の眼を他人に好き勝手にされたままなど御免だ」 そう言いながら、ファルグスは額に巻いた包帯を外し始める。 現れた眼は開眼していたが、瞳に光は無かった。 「瞳が開いている……しかし、盲目のままではないか?」 「瞳に光を取り戻す方法は知っている、だが今はその時ではないのだ」 「……先ほど言った永久の自由は約束されるのだな?」 「あぁ、私の野望の一旦を担うと誓うなら」 ファルグスの言葉に、四天使は互いにアイコンタクトを取る。 「我々は、貴方に降る」 「交渉が纏まって助かる」 ファルグスは、頭身以上の長さの杖を取り出すと四天使を繋いでいた鎖に当てる。 『ヴェリタ・スキアヴァーレ』 そう呪文を唱えると、鎖が外れた。 「我ら四人は、いついかなる時にも貴方の呼び声に答え参上することを誓う」 四天使は両膝を着いてファルグスに服従の体勢を取った。 ギガントマキア大戦 開戦 テミスの神殿 「ファルグス、戦況はどうです?」 「はい、テミス様。戦況は至って好調です、敗戦情報は届いていません」 「そうよね、アテナ様が前線で戦っていらっしゃるのだもの。負けないわよね」 良い戦況にテミスは嬉しがる。 「テミス様、お肩に埃が…」 テミスの肩にゴミを見つけたのか、ファルグスはテミスに手を伸ばす。 「あら、気が利くの…ね゛……?」 テミスの最後の声が喉を潰した声になる。 わけが解らなかったテミスは、ファルグスを見るとファルグスが自分の首筋に噛み付いているのが見えた。 「な゛、な゛にを!!」 首筋から血を流しながら、テミスは身を捩り逃げ出す。 「自分の胸に聞いてみるが良い」 指の爪が異常に長くなった手を構え、冷たい眼差しでテミスを見下す。 「だ、誰か!!!誰か来なさい!ファルグスの反逆です!!」 「呼んだ所で誰も来たりはしない、ここに居る使徒は皆、余の同志なのだからな」 逃げ出すテミスを追い詰めながらファルグスが答えた。 「余=I?余ですって!?その一人称は、主なるゼウス様のみに与えられた言葉よ!!?」 「そう、余こそが真実の絶対神。こんな穢れた世界ではなく、正義に満ちた新世界でな」 ファルグスは口元を吊り上げる。 「使徒が神殺しを行うと言うのか!?お前の赤い鮮血は、血の穢れを受け黒く変わる!重き罪と罰を背負い堕ちるが良い!!」 「余の悲願を成就する為の力ならば甘んじて享けよう!!その罪こそ、余が求めた絶対の力!!」 ファルグスは、長く鋭く尖った爪でテミスを斬り裂く。 「おのれ!おのれ、ファルグス!!」 「余の野望の礎となれ!!!」 テミスに止めの一撃が入り、テミスは息絶えた。 「ぐっ…血の穢れ…これ程の苦痛を伴うとは……!!」 テミスを討った後、ファルグスの全身から裂け目が現れ、赤い鮮血か噴出した。 予想以上の激痛に、体を抱えてファルグスは倒れ込む。 「これが…禁断の書で呼んだ使徒堕ち=c…良いだろう、このファルグス命を賭して享けて立つ!!」 きつく目を閉じ、抱えた腕に爪を立てながら使徒堕ちに耐える。 どれ程の時間が経ったのだろうか?いや、実際はそんなに経って居ないのかもしれない。 ファルグスは、歯を食いしばって使徒堕ちの波が去るのをひたすら待った。 そして、少しずつ痛みも引いていく。 「……やった…使徒堕ちを越えた……使徒堕ちに勝った!余の勝ちだ!!!」 新たな力を手にして、歓喜しながらファルグスは体を起こす。 体中を見渡すと、全身の裂け目は綺麗に消えて元の状態に戻っていた。 ただ前と違う所は、唇からは鋭い牙が微かに見え隠れし、あるはずの心臓の鼓動が聞こえないのである。 「余は死んだのか?」 心臓に触れるが動いていない。 試しに手首の肌を傷付けたら、赤い血ではなく黒い血が流れ出た。 「ほう…」 しかし、ファルグスは自分の体の異変に感嘆の声を漏らした。 「面白くなってきた……」 さっき試しに付けた傷が、もう塞がり綺麗に消えていく所を眺めながらファルグスは笑う。 その後、風の噂で法と正義の女神テミスが失踪したと広まった。