〜堕天使ファルグス〜
「もう、後戻りは出来ない…否、後悔はない。テミスに成り代わると決めた時から、覚悟は決まっている」 一人、法廷の高い天井を眺めながらファルグスは呟く。 「ファルグス様」 「どうした?」 スローンズの一人に声をかけられ、ファルグスは振り返る。 「使徒官管理局のミカエル局長がお見えです」 使徒官管理局とは、天使達を監視し管理する警察組織である。 そこの局長に、大天使長のルシフェルの弟ミカエルが就任していた。 「来たか、あとはシナリオ通りに」 「はっ」 それだけ言うとファルグスは、使徒官管理局へ出頭した。 「審判の天使ファルグス、凱旋よりお戻りになられたアテナ様の治療に当たっていたケルビム達を惨殺、      アテナ様にまでその手にかけようとした罪により主の御前へ引き出す。この罪状に訂正はありますか?」 「ない」 罪状を読み上げた後のミカエルの問いに、ファルグスは淡々と答える。 ファルグスの両手両足、そして首に重い枷が嵌められオリンポスへと連行されて行った。 オリンポスには、主神ゼウスを始めとしてオリンポス十二神が集っている。 その場には、目を覚ましたのか、怪我をおしてまで出席したアテナの姿があった。 「罪人ファルグス、嘘偽りのない真実をその口で語れ」 玉座からゼウスの威圧感で重くなった言葉がファルグスに届く。 その傍らには、友であるルシフェルの姿があった。     ファルグスとルシフェルは一瞬だけ互いの眼をみると、すぐに逸らす。     拘束具の鎖が冷たい音を鳴らした。 「ルシフェル…卿が何故……?」 ファルグスは内心で必死に笑いを堪えながら、絶望に目を見開く演技を始める。 「残念だよ、我がかつての友ファルグスよ……」 ルシフェルも周囲に気付かれないように冷たい眼差しで哀れみの言葉をかけると、ケルビム達の血で染まったファルグスの天秤を持ち出した。 「おのれ!私を裏切ったか!ルシフェル!!」 鎖を鳴らしながらルシフェルに近づこうとするが、付き添いの兵士達に組み敷かれる。 「ファルグス、友として最期の望みだ。罪を認め、懺悔を」 ルシフェルが近づき、ファルグスの前に方膝をつけた。     そして、互いの唇は不適な笑みを零す。 「…ふ、ふふふ……それが卿の最期の望みか?ならば、叶えてやろう!友として!!ケルビム達を殺したのはこの余だ!!」 「余だと!?貴様!!」 罪深い罪人が使った尊い人称名詞にゼウスは怒りに立ち上がる。 周囲もざわめき始めた。 「凱旋門に細工をしたもの、この余!」 ファルグスは、メノイティオス睨みつける。 「下級使徒を殺し、シルバー種のテリトリーに投げ捨てたのも!シルバー種を根絶やしにするとは、愚かなり十二神!!!」 次にアテナに視線を変えると、ファルグスは高らかに笑う。 「大罪人ファルグス、貴様を一筋の光すらも届かない闇の世界、シェオルへ追放する」 ゼウスの言葉と共に、ファルグスが組み敷かれた一部の床が赤い光を放つ。 ファルグスのみが、少しずつその赤い光へ沈み込んで行った。 「あぁ…これでやっと自由になれる……そうだ、一つ言い忘れていた。女神テミスの血は中々に美味であった」 口元を吊り上げて笑うファルグスの唇からは、鋭い牙が現れる。 そして、ファルグスは赤い光の中へと消え、シェオルと呼ばれる未開の僻地へと落とされて行った。