〜クローヴィル建国史 第3章〜








薔薇のアーチの下を、嬉しそうに鼻歌を歌いながらレンガを敷き詰めている少女が1人。

「陛下、喜んで下さるかしら」

ハーカーが首に提げた皮製の小袋に触れる。
小袋の中には、小さなルビーの欠片が入っていた。

「ふふっ。あ、いけない。早く小道の整備を終わらせなきゃ」

薔薇が咲き乱れる小道を、親愛なる王と共に歩く未来を思い描きながらハーカーは作業に戻った。




「陛下!!?」

突如、玉座のある広間が騒がしくなる。
逸早く異変に気付いたクロイツが声を上げた。

「……大事、ない……」

急な咳と共に、ファルグスは黒い血液を吐血する。
真っ赤な唇の端から黒い血を滴らせ、ファルグスは椅子から倒れた。

「陛下!?お気を確かに!」
「誰か、キュールを呼んで!早く!!」

騒ぎを聞きつけ、城内に居た兄弟姉妹達が広間に集まる。

「陛下?」

医療に明るい次男のキュールが、眉間に皺を寄せながら点滴をファルグスの腕に刺す。

「う……っ……」

浅く荒い呼吸をしながら、ファルグスは苦しみに喘ぐ。

「誰か、ハーカーを。彼女の歌が必要です」
「ならぬ!!」

クロイツが近くの者に言った言葉を、ファルグスの鋭い声が静止する。

「何事だ」

騒ぎを聞きつけたエルドラッドが、執務室から出てきた。

「ノステル閣下。陛下が、お倒れになった」

治療を施しているキュールが淡々と答えた。

「倒れたか、寿命が近いな」

エルドラッドは、ファルグスに近づくと膝をつき、頬に触れる。

「ノステル・エルドラッド、余の聖杯よ……。間も無く終焉が、この世界を襲うであろう。悪女が来る。悪女アテナが、余の死を待っている」

ファルグスは、自分の頬に添えられたエルドラッドの手に自分の手を重ねる。

「(……血盟石の欠片を国外へ逃がさねば……)」

エルドラッドは立ち上がる。

「誇り高き護国の騎士達よ!偉大なる建国の親たるファルグスの命の欠片を略奪せし者、逆賊ハーカーを国外追放とせよ!!」

エルドラッドは腰の剣を抜くと高らかに掲げる。
エルドラッドの声に、ハーカーを除く兄弟姉妹達が高らかに声を上げた。