〜クローヴィル建国史 第4章〜








「…さらばだ、ハーカー…」

自室の寝台でファルグスは静かに瞳を閉じた。
天界との対戦前に国外へ無事に逃れられたかを案じて。




「ハーカー」

途中までレンガが敷き詰められた薔薇のアーチへ、クロイツが向かった。

「どうしました?」

クロイツに声をかけられたハーカーが振り返る。

「貴女に嫌疑がかけられました。陛下の血盟石の欠片を盗んだと」
「そんな!?違います!この石は確かに陛下が私に下さった物!」

身に覚えのない疑いに、ハーカーは声を荒げた。

「解ってます。石は我等ヴァンパイアの心臓、大事な心臓を盗まれるリスクのある宝石箱に入れる者は居ません」
「なら、なぜ!?」
「ノステル閣下のお決めになった事です、諦めてください」
「そんな…」

キッパリとしたクロイツの口調に、ハーカーは顔を青くした。

「ハーカー。貴女の使命は、陛下の石を無事にお守りする事。国中の兄弟姉妹達は貴女を探し出し、反逆者として裁かなければなりません。今、貴女が何をすべきか解りますね?」
「こ、国外へ…」

ハーカーは、首に提げた皮製の小袋を不安げに握り締める。

「こちらです。国外までは連れていけませんが、城外へ逃げられるようにしてあげます」

クロイツの後に続いて、ハーカーは走り出した。