プロローグ
深い森の湖畔で、可愛らしいドレスを着た1人の少女が水仙を摘んでいる。
「この位で良いかしら」
しかし、この湖にはオンディーヌが住み着き、美しい女性を見ると嫉妬で湖の中へ引きずり込むという噂があった。
「早く、お母様の病を治して下さいませね」
その噂を知らない少女は、満足そうに微笑む。
病で臥せった母へ、「希望」の象徴であるこの花を贈るためであった。
魔法学校への入学を目前に控えたこの少女の家はとても厳しく、1人での外出は許されていない。
「アーサーとジュリアスには、悪い事をしてしまいました。戻ったら、謝らないといけませんわね」
二人の幼馴染の目を盗んで外出した少女は、少し罪の意識を感じた。
そんな少女の様子を、湖の底から悪意に満ちた眼差しが見据える。
オンディーヌの敵意に気づいていない少女は、もう一輪だけ手折ろうと近くの水仙に手を伸ばした。
その途端、水面が女性の手の形に盛り上がると少女の腕を掴む。
「きゃあっ!?」
物凄い力で腕を引っ張られ、少女は湖の中へ引きずり込まれてしまった。
少女は必死に抵抗する。
少女は強い魔力を有する魔女であったが、少しだけの外出のつもりで魔法使いに必要な魔法の杖を家に置いて来てしまっていた。
杖を持たない魔女の少女に抵抗する術はなく、少女の意識は次第に遠退き始める。
急にオンディーヌが断末魔を上げ、少女の腕を放した。
その隙に何者かが、少女の腕を引っ張り上げる。
袖に付いていたボタンの紋章を見ると、少女は意識を失った。